*オーセンティックバーノート*

女ひとり、オーセンティックバーへ行く。

一人を楽しむ

 

…疲れた。

今日はまっすぐ家に帰りたくない気分。

 

 

この時間は混んでいるかもなあ。

とぼんやり考えながら、

それでも足はつい、いつもの所へ向かう。

 

重い木の扉を

おそるおそる開ける。

 

賑やかな声が外までもれているので、

案の定というか、予想した通り、

カウンターはほとんどお客さんで埋まっている。

 

 

「こんばんは。入れます?」

 

 

扉を半分ぐらいの所まで開けて、

中をうかがいながら、

目の合ったバーテンダーさんに訊く。

 

 

「いらっしゃいませ。大丈夫ですよ。お一人ですか?」

 

 

笑顔の応対にホッとして、

扉を押し開ける。

 

ちょうど、カウンターの真ん中に近い辺りが1席だけ空いていた。

 

両隣はそれぞれ、

二人連れと三人連れの、仕事帰りと見られる人たちだ。

 

 

「今日はどうなさいますか?」

 

 

えっと…と考え、

最近おぼえた“ソルクバーノ”を注文する。

 

 

ぼんやりと、カウンター後ろに並んでいるお酒のボトルを眺めて待つ。

 

それぞれ楽しそうに会話が弾む人たちの間で、

エアポケットみたいに

一人だけ静かにしているのも、

なんだか心地いい。

 

 

店内はなんとなく活気があって、

バーテンダーの人たちは皆いそがしそうに動き回っている。

 

話しかけられることもなく、

心ゆくまで一人でボーッと過ごせそうだ。

 

 

オーダーが立て込んでいたのか、

申し訳なさそうに若いバーテンダーさんが、

私のカクテルを運んできた。

 

 

「たいへんお待たせしました!」

 

 

今日は週末でもないのに、結構混んでいるねえ。

そうなんですよ。ありがたいことなんですけどね。

とか話している間にも、他のお客さんの注文が入る。

 

 

「今日は放っておいて大丈夫だから」

 

 

というか、放っておいて欲しい。

伝わったかどうか分からないけれど。

 

タブレットを取り出し、

一応、カクテルの写真を収める。

暗い店内なので、あまりハッキリと写らない。

 

それからまた、棚のボトルを眺める。

あの辺りのはたしか、テキーラだったか。

見たことのあるお酒は余りない。

というか、ほとんど知らない。

 

でも、これだけお酒が並んでいると、

不思議と贅沢な気分になる。

 

 

グラスがいつの間にか空になってしまった。

ゆっくり飲んでいたつもりが、

そうでもなかった。

 

みんな忙しそうだから、

なんとなく声をかけるのをためらう。

 

 

 

次は何にしようかなあ…。

 

 

 

せっかくだから、ゆっくり、本当はぼんやり考える。

このままグラスが空になっているのに

気付かないでいてくれてもいいんだけどね(笑)